古川日出男著 アラビアの夜の種族

すごい風、すごい雨。月曜日。

引きこもりの三日目、もっぱら文字でのやり取りをあちこちと。口は、食べることにしか使っていない。もしもしみんな、どうお過ごしですか。

浴室を磨くとか、寝室のベッドの配置を変えたりとか、夫の退院に向けての動きをしつつ、アラビアに飛んでいた。もう長いこと、アラビアとこちらを行ったり来たり。手首がやられそうな分厚い本を、幾日も幾日も開いては閉じていた。

遠い遠い昔の、馴染みのない異国の、おとぎ話のような戦いの記録のようなこの本を、私は自ら読み進めながら、読み聞かせを受けているかに錯覚する。

幾夜にもわたり、あるいは長い長い一夜のごとく物語は進み、過酷な日常は暗幕の向こうに追いやられる。

 

おとぎ話であり戦いの記録であり冒険譚でもあり歴史書でもありそうなこの本は実は翻訳であり、過去に一度も真実の著者がつまびらかになったことはないという。そうであるがゆえに翻訳者の思うままに、つまりは語り手の思うがままに、付けたり貼ったりいじりまわされて世界中に拡散されているという。

日本語版の著者古川氏は、神秘的な偶然、あるいは必然によって、異国で、この翻訳の底本である英語版アラビアの夜の種族に出会い、自身が日本語に翻訳してみようかと思い立ったとあとがきに書いてあった。

人もさることながら、本との出会いでも時にそういうことがある。私もまた、このタイミングでこの本に出会った必然性を感じずにはいられない。私にはこの本が必要だった。今の、このタイミングで。絶対に。

この閉塞的な時期の、日常の、鬱屈しそうな空気の中で溺れそうになっている人がいたら、私は迷わずこの本を薦める。一瞬にして、異世界に吹き飛ばしてくれるから。

なんちて。