犬婿入り 多和田葉子

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夢のウラドと並行して読んでいた本。

「ペルソナ」と「犬婿入り」の二つが入っている。どちらも読みやすくそれでいて単純ではない。無駄が一切ない選び抜かれた言葉たちが独特の言い回しで自由に転がるから、追いかけながら読んでゆく感じで。感情表現をあれだけ絞っていても書かれている部分よりも書かれていない部分のほうが脳内に広がってゆくということは本当にすごいことで、やることやらないこと目に映すもの耳に入れるものなどからどういう気持ちかとゆうことを読者に知らしめてゆくのだった。出来事は細くいながら強く日常のいたるところに散らばっていて拾い上げるか上げないかも個性が発揮される部分なのだということを普通に生きているといちいち考えたり感じたりはしないけれど、私たちは取捨選択を常にどんな場面でもしているのだ。そういう散り散りの中に、運なのか経験なのかも織り交ざってその人はその人になっていくのだし道が開けたり閉じたりするのだし。

この二つの小説には「どうしてそんなことを」とか「何故そんなことが」ということがふんだんに出てくるけれどもいずれも間違いなくリアルでそれがそうではないとむしろおかしいというふうに感じるしそういう部分がまさしくこの小説の凄みになっていると私は感じたのでした。

ああそれにしても「小説の自由」という本があるけれども(保坂和志著)まさしく小説ってなんて自由なのだろうとあらためて興奮してしまうのだよこういう本に出会うと。縛りは常に自分の中にしかないのに何故こうも窮屈に考えてしまうのだろうと反省にも繋がる大変有意義で楽しい読書だった。

 

多和田葉子さんの作品は随分昔にもう一冊読んだことがあるのだけど、すでに題名も思い出せないくらいご無沙汰なのだった。こういうのが本当に悔しくて、読書記録をつけはじめては挫折しながらあちこちのノートやネット内に切れ切れに書いているものをいつかまとめなくちゃと思っているがいつかはいつまでもいつかのまま。